ABM(Account Based Marketing)とは、Account Based MarketingのAccountとは「得意先・取引先」といった意味で、直訳すると「企業に基礎を置くマーケティング」となります。
これだけでは一般的なBtoBマーケティングとの違いがわかりづらい用語です。
ABMはBtoBマーケティングのなかのひとつの発展形と位置付けることができます。今回は、ABMとは何か、ABMの進め方、必要なツールなどを解説します。
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ABMとは?なぜ今必要とされるのか
ABMの定義、重視されるようになった背景、従来のマーケティングとの違いについて解説します。
ABMの定義とLTVの最大化
ABMはAccount Based Marketingの略です。ABMの第一人者である庭山一郎氏は、自身の著書「究極のBtoBマーケティングABM」のなかでABMを以下の通り定義しています。
ABMとは
前者の顧客情報を統合し、マーケティングと営業の連携によって、定義されたターゲットアカウントからの売上最大化を目指す戦略的マーケティング
ABMはBtoBマーケティングの戦略のひとつであり、個人ではなく企業にフォーカスしたマーケティングです。定義にあるように、目的はターゲットアカウントからの売上、つまりLTVの最大化です。
LTVについては以下の記事で解説しています。
LTVとは?BtoBマーケティングにおけるLTVの重要性と施策を解説
LTVは顧客管理やカスタマーサクセスにおける考え方とされていますが、ABMにおいてはLTVの最大化を最重要と位置付け、営業部門やマーケティング部門、さらに経営層も連携してターゲット企業にアプローチを図ります。
ABMの起源と、重視されるようになった背景
ABMが広まる前に、CRMやMAの発展がありました。
欧米では1990年代頃からCRM、2000年代ごろからMAが広まり、これらはコンピュータとインターネットの進化にともない大きく発展し、2010年代以降で日本にも普及しました。
さらに、CRMやデジタルマーケティングのなかでLTVという考え方も生まれました。
2010年頃、CRMやSFA、MAが定着したアメリカでは、各企業が保有する顧客データを最大限に活用してLTVを最大化することが一般化しました。
BtoBマーケティングにおいては、効率よく売上を拡大する方法として、「既存顧客の顧客情報を活用してLTVを最大化する」ことに加えて、「現在は取引がないがLTVが期待できる見込み客に対して、積極的にアプローチする」という動きも重視されるようになり、これがABMという手法になりました。
LTVが大きい、つまり大型の取引先というのは営業部門がもっともアプローチしたい対象でもあります。
ABMは営業部門が主導するマーケティングであるということも、従来型のマーケティングと違う点です。
今日本でもABMが注目されていますが、その背景には以下のような日本企業の抱える課題があります。
1. マーケティング部門と営業部門が効率よく連携できていない
マーケティング部門が獲得して営業部門に引き渡す「ホットリード」が、必ずしもよい商談や優良顧客へとつながらないことがあります。
マーケティング部門は「ホットリードを営業部門が十分フォローしてくれない」、営業部門は「マーケティング部門からパスされるホットリードがよい成果に結びつきにくい」というように、お互いの認識にずれを生じさせていることもしばしばです。
この点、ABMの場合は、マーケティング部門と営業部門は当初から連携してターゲット企業を選定するのでスムーズに進んでいけるということがメリットです。
2. 事業部との取引で企業全体の情報が取得できない
日本の多くの企業は事業部制で、各部門の購買部門が取引の窓口となります。
このとき、他の事業部門の情報は入手できません。たとえば、A企業のX事業部と長く取引して顧客からの評価も得ているのに、Y事業部との新規契約を競合他社に取られてしまうといったケースがあります。
ターゲット企業の情報を共有し、このような機会損失をなくすというのも、ABMの戦略のひとつです。
今までのマーケティングと何が違うのか
MAなどによるデマンド・ジェネレーション とABMとの違いを確認します。
デマンド・ジェネレーションとは、「リードを獲得し、獲得したリードの興味関心を引き上げる施策を実施してホットリードを増やす」というマーケティング手法のことです。
デマンド・ジェネレーションとABMの違い | ||
デマンド・ジェネレーション | ABM | |
対象 | リード(個人) | アカウント(企業) |
とらえ方 | ”点”でとらえる | ”点”の集合体の”面”でとらえる |
ターゲット | 不特定多数の新規顧客 中小企業が多い |
特定の既存顧客または新規顧客 大企業が中心 |
主導する部門 | マーケティング部門 | マーケティング部門と営業部門 |
リードタイム | 長い | 短い |
スタイル | インバウンド LPや広告で集客 |
インバウンドまたはアウトバウンド ターゲット企業向けのマーケティング(※1) |
※1 ABMにおけるターゲット企業向けのマーケティングは、基本的にはMAなどを利用して進めることに変わりはありません。ただし、一定の情報を収集・分析してキーマンを特定できたときには電話などでプッシュ型のアプローチをすることもあります。ABMの実践の流れについては次章で述べます。
注意したい点は、ABMはデマンド・ジェネレーションにとって代わるわけではなく、従来のデマンド・ジェネレーションを補完し発展させる方法だということです。
今までの集客方法に加え、あらたな顧客拡大を図りたい場合にABMの導入を検討します。
BtoBマーケティングにおけるABMの実践
BtoBマーケティングの現場でABMを進めていく流れを解説します。
ABMを取り入れるべき企業とは
ABMをマーケティング部門や営業部門だけで運用することはできません。したがって、ABM推進は全社的に合意して決定する必要があります。
ABMを取り入れるべき企業とは、以下のような企業です。
一顧客あたりの取引額が大きい
取引額が小さい多数の顧客を抱える企業よりも、取引額が大きい少数の顧客をもつ企業にABMは向いています。
一顧客を新規獲得したときにまとまった額の売上を得られる見込みがあればリソースを集中しやすいからです。
大企業との取引を増やしたい
たとえばスタートアップ企業の場合、最初は中小企業を顧客として獲得することから始まり、事業が拡大すると大企業の顧客も増えていきます。
自社が成長するタイミングで大企業の顧客をさらに増やしたいとき、ABMが有効です。
すでにMA/SFA/CRMを導入済で、顧客データが蓄積されている
ABMはデータドリブンであることが求められます。ターゲット企業の情報をあらゆる方法で収集・分析する必要があるので、すでにMA/SFA/CRMを使いこなし、顧客データの蓄積がある企業に向いています。
ABMはMA/SFA/CRMによる見込み客・顧客管理の発展形といえます。
多様な商品・サービスを提供している
提供する商品やサービスの種類が多い企業はアップセル・クロスセルによりLTVを伸ばすことができるので、ABMが適しています。
新商品発売、営業部門の改革などのタイミング
有力な新商品・新事業を開発し、新規顧客開拓を戦略的に行いたい場合や、既存の営業やマーケティング部門の改革など、内部要因によりABMを導入したいと考えるタイミングもあります。
ターゲット企業の選定
ABMに取り組む場合、まずターゲット企業を選定します。その前に、ターゲットとする企業を定義する必要があります。
定義づけのためにはCRMなどにより自社の顧客を分析するほか、STP分析、ペルソナなどを使用します。
STP分析は企業、ペルソナは企業に属する個人を絞り込むことができます。
参考情報
また、ABMのターゲットには既存顧客と新規顧客がありますが、既存顧客のLTV拡大か、新規顧客開拓か、どちらかに集中して取り組むこともあります。
ターゲットとする企業の定義が確定されたら、具体的に企業名と関連する情報をリストアップします。
そして、MA/SFA/CRMはもちろん名刺データなども含めて、ターゲットの企業名に紐づく社内のデータをすべて集約させます。
ターゲットアカウントのリストに外部企業が提供している企業データを追加して、「優先してアプローチすべきターゲット」を明確化させる手法も一般化しています。具体例は後述します。
ターゲット企業向けのマーケティング施策の実施
新規アカウントの場合、担当者の名前や連絡先が不明なので、窓口となる担当者の情報を取得することが最初の目標となります。ターゲット企業向けの施策として以下があります。
個人情報を取得するためのデジタル施策
ターゲット企業のIPアドレスに限定してネット広告を配信します。同時に自社のHPではパーソナライズしたLPを表示させたり、ホワイトペーパーを用意したりして、企業担当者の個人情報登録を促します。
ターゲット企業からのアクセスを解析
ターゲット企業のIPアドレスからのアクセスを集約して、どんなページを見ているか分析します。
一つの企業のなかで複数の個人がページを見ていたり、料金表や導入事例のページを見ていたりする履歴を分析し、次の個別アプローチを検討します。
ターゲット企業限定のイベントの開催
連絡先がわかるターゲット企業に対しては、対象企業を限定したイベントを案内します。参加者には特に価値の高いコンテンツを提供します。
有望なターゲットへの電話
行動履歴などから興味関心が高いと判定されるターゲット企業へは、インサイドセールスから電話をすることもあります。
ABMの施策として電話をかけるときは、アポイントが取得できない場合も詳細な通話履歴を残し、長期的なアプローチへつなげます。
このように見てくると、ABMの具体的な手法そのものは一般的なマーケティングとほぼ同じです。
違うのは、LTV最大化という目的のもとで対象が特定されていること、当初からマーケティング部門と営業部門が連携していることです。
また、個人ではなく企業を単位として情報を集約して施策を実行するためには、ABMに対応できるMAツールが必要です。MAツールについては後で述べます。
目的別・ABMのためのツールと活用事例
ABMを実践するためにどんなツールが必要なのか、どう活用するのか、シャノンの事例を含めてご紹介します。
ABMのために必要となるMAの機能とは
ABMを実践するために不可欠なツールとしてはまず、MAがあります。ターゲット企業へ向けたマーケティング施策を実施し、行動履歴をデジタルに集約するためです。
BtoB向けのMAツールの場合、ABMで必要な以下の機能が実装されていることが多いですが、自社にとって必要な機能があるか確認しましょう。
企業単位でのアカウント管理
個人として登録されたリードを企業ごとに集約して、企業単位のマーケティング施策ができます。
自社とのコンタクト管理、新規顧客か既存顧客かの判別などの機能も必要です。企業名のほか、メールアドレスのドメイン からも企業に紐づけができます。
名寄せ機能
株式会社と㈱、会社名がアルファベットとカタカナなど、BtoBのリードで多い表記ゆれを名寄せする機能が必要です。
名刺管理機能
名刺データをMAのアカウント情報と一元管理できる機能です。
シャノンのMAツール「シャノンマーケティングプラットフォーム」はABMに不可欠な各種機能を備えています 。
- 外部企業データとの連携
- 名刺データのデジタル化
- 企業ごとの名寄せ機能
- 企業属性情報に基づくスコアリング
- ターゲットの行動履歴を営業担当者へリアルタイム通知
ターゲット企業の選定に役立つ、企業データベースを提供するABMツール
ABMの最初のステップでターゲット企業を選定しますが、このときに必要となる客観的な企業情報を提供するツールが役立ちます。
この機能をメインとするデジタルツールを「ABMツール」と呼ぶことが多いです。MA/SFA/CRMと連携させて使用可能です。
自社の顧客データに企業情報を連携させると、「ここの企業なら受注の見込みが高そうだ」というニーズ(ホワイトスペース)が見えてきます。
ユーソナー
人事情報、外部評価など、取引関係などの企業データベースです。
FORCAS
各種企業情報を提供するほか、自社の顧客リストから顧客傾向の分析ができます。
シャノンでも企業情報を連携してABMを実践
シャノンではMAツールに「ユーソナー」を連携し、自社のABMを実施しています。
導入してから間もないので、これから活用が進んでいく段階ですが、以下のようなシーンでの利用を想定しています。
企業情報からターゲット企業を絞り込む
MAで収集したリードを企業ごとに管理し、連携している企業情報を参照してターゲットを絞り込みます。
自社の新機能情報を先行紹介
既存顧客のターゲットアカウントに対して、新機能情報を「先行限定」などで案内します。
ハガキDM
取引がないがアプローチしたいと考える新規アカウントに対して、ハガキDMを送付することも可能です。
シャノンのMAツールには、ABMに欠かせない企業情報、SFA/CRMなど、各種ツールを連携できます 。
ABMを実践するとき、あらゆるデータを集約するためにMA/SFA/CRMは欠かせないツールといえます。
ターゲットアカウントへの継続的なアプローチの段階では、アクセス履歴などを蓄積・フォローできるMAツールが効果的です。
SFA/CRMの連携については、「MAツールとSFA/CRMとの連携、どう進める?それぞれの違いと役割、マーケティングと営業を効率化する仕組みを解説」でくわしく解説しています。
まとめ
本稿のポイントは以下の3点です。
1. ABMとは、企業にフォーカスしたBtoBマーケティングで、LTVの最大化が目的です。
2. 日本ではマーケティング部門と営業部門の連携に課題がある現状において、ABMが注目されています。
3. ABMは取引額の大きい顧客がいる企業、今後大企業の顧客を増やしたい企業に向いています。
4. MAツールの企業管理機能によりABMを実施できます。外部の企業情報を追加するツールも提供されています。
最後に、シャノンのマーケティングオートメーションでは、データの一元管理による効率的なリード獲得とナーチャリングが可能です。
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